創書日和「音」/虹村 凌
付いたのが電車に乗る3秒前だったのか
今になっても思い出せない
そんな事を雨音を聞くたびに思い出す
あえいうえおあお
「カシャリカ」
君はするりと服を脱いで
少し痩せ気味の身体を銀塩に焼き付ける
シャッターを切るのは勿論僕では無く
どんな部屋でどんな音の中で
君は切り取られて残されたのか知る由も無い
カシャリカシャリ
ガシャンガシャン
その写真はいつまで残るんだろう
僕は
昔の事だけ輝いてる
そんな暗い毎日を過ごしている
カシャリカシャリ
ガシャンガシャン
銀塩でさえ色褪せると言うのに
カシャリカシャリ
ガシャンガシャン
ちっとも色褪せずに残る
苦痛だとかそういった類
「カシュッ」
喫煙室に行くとまず髪の短い女を探して
そして指に金色のマルボロを探すのさ
ピースと金マルを吸ってた事以外は知らない
喫茶店の隅っこの席で
君は燐寸の軽快な音を立てながら火をつけていた
カシュッ
真横を向いたまま
雨音にかき消される程弱い視線でずっと見てる
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