地獄行きの男/ajisai
は次々と命乞いの言葉を並べ立てた
少年は答える
「お前は、そう請うた人々を
誰も助けなかったじゃないか
それに死は誰の元にも
平等にやって来るものだ」
男は答えに窮し、それでも助けを乞う
「ではせめて私を天国へ連れて行ってくれ
私は村一番の金持ちだったんだ
その権利はあるだろう」
少年は黙って男を連れて夜空を飛ぶ
その先には黒髪、黒衣に大振りの鎌を持ち
角と牙を生やした青年が待っていた
その青年は悪魔だった。
「地獄へようこそ。」
男に向かって悪魔はにやりと笑いかける
死神は男を悪魔に引き渡す
「何故私が地獄ゆきになるんだ
今までの事は全て悔い改める
お願いだ、助けてくれ」
泣き叫ぶ男を悪魔は容赦なく
地獄へと引きずっていく
人間とは愚かで憐れだ
いつだってやり直そうと思えば
やり直せたはずなのに
資産家への恨みが、少女の死が
男を金の亡者にさせたのだろう
少女は天国で悲しんでいるだろう
死神の少年は想う
そして自分の役割の辛さを
苦々しく噛みしめた
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