風と指輪/下門鮎子
結婚指輪をなくした女に会った。
子どもがどうしても貸してほしいというので
貸したらなくされたのだという。
青い砂が、風に少しさらわれていった。
女は忙しいのだという、
子どもが騒ぐとかなわないので
つい指輪を貸したのだ。
自分を責めているようだった。
責めないで
と言おうとしたけれど、
なぜだか言葉が出なかった、
かわりに音たてて舞ったのは
風。
今日は風も機嫌が悪い、
ぼくは曇天を見上げる。
女は子どもの手をひいて
なにもかも溶かし込みたいとでもいうように
じっと
青い砂を見ている。
ひとつぶ雨が降る。
ぼくは
ようやく子どもの頬にふれて
きっと見つかるよ
とつぶやいた。
もうすぐ夜の帳が下りる。
夜には地平線が消える。大地が青いからだ。
遠くに駱駝がゆらめく。
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