殺意/恋月 ぴの
を読み耽っていた
わたしは
情熱的なストーリーに憧れて
いつのまにか登場人物になりきっていた
日が暮れて家々に灯りのともるころ
ふたりきりの夕餉がはじまる
食卓には採れたての夏牡蠣
硬く閉じた殻を抉じ開けようと
わたしの知らないおとこのひとは
漁師が使うようなナイフを
わたしの視線にゆっくりと滑らせて
いやがる素振りを見せるでもなく
夏牡蠣は青白い内臓さらけ出し
軽く搾ったレモン汁
そのひとは美味しそうに舌鼓を打って
あの情熱的なストーリーの通りなら
わたしはきっと手にしている
排気臭が鼻につく掃除機の電源コード
総てが寝静まった寝室の
ふたりで寝るには狭いベッドの上
首に巻かれた電源コードの苦しさに
夏牡蠣を啜った舌はだらしなく伸びきって
何かを叫ぼうとしたおとこの口もとは
ぽっかりと深い闇への入り口
ゆらり漂う
わたしの青白い内臓と長い黒髪
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