森の背中/佐々宝砂
たのか
あたしが何をほしかったのか
いまこそあたしは知っている
土手沿いには三日月沼がひとつあって
葦がたくさん生えていて
四畳半くらいの広さしかない水面は
澱んで泡を浮かべている
沼の暗い水に浮かんでいるのは
泡だけではない
うつぶせになってたらりと手足を沼に沈めて
浮かんでいるのは森
顔なんか見えないし
この体勢ではセックスなんかできないけれど
そんなことはどうでもいい
これがあたしのほしかったもの
白くふやけた
あたしがころした
森の背中に
冷たく固い
moriの背中に
あたしはゆっくりと
自分の肌をかさねてゆく
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