たまたま/恋月 ぴの
 
「この花きれいだね」


あなたは美しさの形を指先でなぞると
風の誘うままに微笑み


未だ慣れぬ白い感触を確かめながら
おぼつかない足取りで
わたしの半歩先をゆっくりと歩む


ちいさな段差に気付かなくて
よろける あなた
慌てて差し伸べようとした思いを
あなたは笑顔で遮る


「日差しの逞しさをこころで感じるよ」


たまたま 僕は急いでいて
たまたま あの夜は雨が降っていて
たまたま あの時刻にあの交差点で…


ベッドの中でもあなたは嘆くわけでもなく
信号を無視した相手を怒るわけでもなく
わたしの涙の意味を黙って抱きしめて


「たまたまの意味なんて無いよ」


ひとは 誰でも普通に生まれ
ひとは 誰でも普通に生きるだけ
たまたま 悲劇に出会ったりするけど
それでも ひとは普通に生きてゆくだけさ


あなたは草いきれのする堤防の頂きで
真新しい白い感触を握り直すと
明日の方角に向って大きく丸く弧を描く



  グループ"優しさを忘れないように"
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