異形の詩歴書 14歳冬/佐々宝砂
れた柳瀬のその文章は、14歳の私にとって、まことにわけのわからぬものだった。ボルヘスの原典を知った今とて、わけがわかるとは言い難い。しかし、そもそもがナンセンスを目的とした文章なのだから、一見どんなに衒学的でも、ナンセンスを楽しむことができればそれでいいのだ、と現在の私は考えている。だが当時の私の考えは逆だった。何だかわからないがおもしろい。おもしろいのにわからない。わからないから癪にさわった。
ボルヘスを読まなくちゃ、と私は思った。『山海経』も、チャタレイ夫人も、フローベールも。あれも、これも、ああ、なんとたくさんの書物! 私は、おそろしくたくさんの書物を読まねばならぬことに気づいた。私はノートの表紙にでっかく読書予定表と書いて、読まねばならぬ本のリストをつくった。それは300冊近くあった。何のためのリストだったかって? 私の内奥には、すでにきっぱりとした目的があった。しかし私はそれを表だって明かさなかった。
自分でも、その目的が何であるか、気づいていなかった。
2001.3.27.(初出 Poenique/シナプス)
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