異形の詩歴書 〜10歳/佐々宝砂
っとあとになってからのことだ。
しかし百人一首は大好きだった。百人一首はゲームにもなるからだ。私の得意札は「花の色は移りにけりな徒にわがみ世にふるながめせしまに」で、これを弟にとられると躍起になって怒った。カルタというのは、やってみればそれなりに面白いゲームなのである。私たちはいろはカルタでも遊んだ。また、母は俳句カルタなるものも買ってきた。俳句を覚えさせようと画策したのかそれとも単に自分で遊びたかったのか、おそらく後者だと思うが、これは、芭蕉やら蕪村やらの俳句をカルタにしたてて、いろはカルタ式に遊ぶカルタである。俳句カルタは百人一首に較べると面白くない。でも、それなりに、俳句の言葉は私にしみこんだ。俳句カルタでの私の得意札は「春の海ひねもすのたりのたりかな」だった。 だが、私は俳句が好きではなかった。のちに萩原朔太郎経由で蕪村を読み直すまで、私は母を介してしか俳句を知らずに過ごした。
幼い私の脳裏には、まず、そのように、百人一首と俳句と谷川俊太郎とマザー・グースが刻まれた。
2001.3.27.(初出 Poenique/シナプス)
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