異形の詩歴書 〜12歳/佐々宝砂
。しかも文章と挿し絵がどこか艶である。私は、その挿し絵が19世紀末のラファエル前派に属する画家の手になることを解説で知った。それをきっかけに、私の興味は19世紀末のヨーロッパの芸術へとうつりはじめる。私は中学校の図書室でボードレールとリルケを借りた。特にボードレールの「異人」が好きだった。私は新潮文庫の『ボードレール詩集』と『リルケ詩集』を買った(それが生まれてはじめて自分で買った詩集だ)。
しかしなお、私は母の支配下にいた。私が『マルテの手記』を借りてきて読んでいると、母は、「おまえもそんなもの読む年になったんだねえ」と言い、『怪奇小説傑作集』を読んでいると、「ああ、それが面白かったのなら、ラヴクラフトも読むといいよ」などと言った。全くおそるべき母なのである。怪奇と幻想とSFと江戸と中国と俳句の世界にいる限り、私は母を越えられそうになかった。しかし、母は、ボードレールをまるで知らなかった。私は母の束縛を逃れ、少しずつではあったが、自分好みのものを見出しつつあった。
2001.3.27.(初出 Poenique/シナプス)
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