夕焼けが足りない 4(枝垂れ)/AB(なかほど)
まだ緑の生い茂った頃につく花梨の実は、
毎年のように手が届かないところについてい
て。酒に漬けると美味しくなるとか、蜂蜜を
加えたら喉の薬になるとか、はす向かいのK
さんは毎年言う。
けれど、その花梨の実は家のものではなく
て、荒れ放題の隣の敷地から家の屋根に覆い
かぶさるように伸びているだけで、喉薬にし
たいから花梨を分けて下さいと言えるほど、
隣の亭主も僕自身も波平さんみたいにはなれ
ない。
それから、無花果が、キイウイが、柿がそ
れぞれ実をつけては家の玄関口や勝手口にせ
り出してくる。のをそのままに放っておくと、
まず、無花果のお尻に小さい穴が開いて虫が
入る。キイウイは熟す前に風に吹かれてボト
ンと落ちて、柿は、柿はよっぽど渋いらしく
て、ドロドロになってから鳥に啄まれる。
雪の知らせも届きはじめ。実のなる木はす
っかり葉が落ちてしまい、隣の縁側がよく見
渡せるようになっても、花梨の細い枝の重た
そうに付いている実はそのままで、いつまで
たっても
「あの頃」
なんて言っている自分もぶらさがっている。
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