灰の月/塔野夏子
窓辺を漂っていたスウィートピーたちは
薄れて消えてしまったよ
白いのもピンクのも薄紫のも
いつか行こうなんて云っていた
銀の門のある空中果樹園も
いつのまにかどこへやら消え失せてしまったよ
今宵の空に架かっているのは灰の月で
やっぱりきっと夜明けには
吹きさらわれて消えてしまうよ
仕方ないからテーブルに白い大きな紙をひろげて
消えてしまったものたちの絵をひとつひとつ
たいせつに描き込んでるんだ
不器用だからどうしても
絵の具はにじみがちになるけれど
忘れてしまわないうちに
君を待つって
そういうことなんだね
もうすぐこの白い紙は
いっぱいになるよ
前 次 グループ"春のオブジェ"
編 削 Point(11)