余 黒/塔野夏子
なまぬるく
なまめかしい
春の夜風の底 へ
わたしは
指を溜める
纏わりつくのは
すこしはなれたところでざわめく
緑と水の匂い
だろうか
やがて下弦の月がのぼって
ちいさな蝙蝠がひとつふたつ
中空にとびかう気配もして
それでも
わたしの外にも内にも
やわらかい闇が
とめどなく
余っていて
だからわたしは
指を溜める
その指はいつのまにか
知らない弦を
ひとりでに奏ではじめる
だろうか
なまぬるく
なまめかしい
春の夜風の底 で
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