雨の日の渡り廊下/
塔野夏子
いちばん古い棟へとつづく渡り廊下は
いつもひっそりとしている
ことに雨の日には
この渡り廊下だけが離れて
雨降る宙の中に 浮かんでいるような気になる
《ここで語り合ったこと
《ここで告げたこと
じっと佇んで
窓ガラスをつたうしずくたちをながめていると
《ここで秘めたこと
雨降る記憶の中に 漂っているような気になる
やがて本棟の方から くぐもったチャイムの音
フリージアの香りが かすかにした
前
次
グループ"春のオブジェ"
編
削
Point
(10)