したたる、/岡部淳太郎
幽霊となった私の、そ
んな見えないこころのかたちなど。
したたる、
水で口元をすすぐのは、いつも生
きている人です。幽霊はぬれなが
らかわきながら、そのどちらの状
態にもそまることができないので
す。生きているあなたには、おわ
かりにならないでしょう。夜のさ
びしさや、私のそんなさまようだ
けの、声にならない声のことなど。
したたる、
水とともにありながら、私にはま
だたりません。私の水分がこうし
て、し、たたり、ながら、人が呼
吸する大気のなかにとけているは
ずですが、あなたは気づかないで
しょう。私は暗い川の橋のところ
にいます。いつか涙のように、お
会いする夜があるかもしれません。
(二〇〇七年六月)
前 次 グループ"その他の幽霊"
編 削 Point(23)