[ 天使と僕(あまおと)]/渕崎。
が指先を振るって歌うように言った。
『雨音はね、歌なのですよ』
詠うように囁いた女は「自称:天使(候補生)」だ。
道端でうっかり拾って、気付いたらちゃっかり家に居つくようになっていた。
別段、食費等がかかるわけではないから放置しているが、
こうやって時々意味不明なことを言い出すのが問題だ。
僕はマグカップの紅茶を飲み干して、
自称天使に冷たい視線を投げつけた。
けれど自称天使は僕の目線にひるむわけもなく笑ってかわし、
指先を指揮棒のように緩急をつけて降り始めた。
すると、
雨音は音楽になり、
音楽はやがて歌になり、
草木までが合唱を始め、
天使のソロが主旋律を奏ではじめる。
人口樹は気持ちよさそうに葉を揺らし、
カタツムリが這う紫陽花はいっそう色鮮やかに艶めく。
うっかり聞き惚れていた僕は、
天使のお辞儀ではっと我に返り恥ずかしさからふいと横を向いた。
天使はまだ上機嫌で小さく主旋律を歌っている。
『雨音はね、歌なのですよ』
憂鬱だった雨の日に、自称天使はそういった。
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