死神と私 −蛍の光−/蒸発王
 
のような光沢が黒い地模様に浮んでくるのです
青く黒く羽をはためかせる黒アゲハを息子は夜遅くまで眺めていました


その息子が今度は図鑑でしか知らない蛍が欲しいとだだをこねたのでしょう
知らぬ顔をして夜蝉がいななく帰路を急いでいると
すぐ横の木から蝉が落ちました
じりじりと弱い音をたてながら
寿命がきた蝉はわずかに前足を動かすのみです
その時に私の視界の片隅で弱く光るものがちらつきました
黄色い光は死にかけた蝉の傍に止まると
さらに明るく飛びまわりました

ゆったりと舞う蛍です

私は反射的に両手で蛍を包み込むと
一目散に家を目指して走りだしました
驚きで少し興奮し
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