死神と私 −真夜中に降る雨−/蒸発王
っぱり出しました
初秋の暑さもどこへやら
秋雨の冷気は街中にまんべんなく染みこみ
視線を下にするとアスファルトの灰黒が黒光りをしています
細めた視界の端に
家の前にできた大きな水溜りが入りました
空から降り注ぐ雨の波紋がゆらゆらと揺れる
その
水溜りのさかしまに
夫が立っていました
水溜りのさかしまに映る夫の顔は
泣いているようにも笑っているようにも見えました
夫は呆然と見つめる私に音もなく
口元だけを動かして何か伝えると
また水溜りに雨粒が降り注いで波を起こし
波が晴れた水面には
もう夫は居ませんでした
真夜中の雨は
空の彼岸と地の彼岸をつなぐ糸だから
その糸をたどって
亡き人がさかしまの水面に会いにくるのだと
言われて視線を上げると
死神が真っ赤な傘をずぶ濡れの私にさしています
“真夜中に雨が降ると良いですね”
という死神の慰めを聞きながら
今なら泣けると妙に安心して
嗚咽交じりの声で
さっき夫がしたのと同じように唇が動きました
『ありがとう』
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