記憶の物語/アンテ
 
偽物の動物を追い出そうとすると
偽物は彼女を強く抱きしめ
二人の身体はぴったり密着して離れなくなった
身動きができないまま時間がたつうち
自分が本物か偽物か判らなくなって
気持ちがぐらぐらと揺れ動き
気がつくと二人はその場に倒れていた
一人がやれやれとため息をついて
部屋を出ていったので
もう一人が慌てて窓に駆け寄ると
うつむいて通りを行き交う人々のなかを
彼女だけが胸を張って歩き回り
記憶の少女や老人や友達を見つけだしては
頭に拳を叩きつけた
すると彼らはもとの記憶の欠片にもどり
風にあおられて跡形もなくなった
記憶から産まれた人たちがすっかり姿を消したあとには
彼女もどこにも見あたらず
風がひとしきり吹き抜けると
通りはもとの静けさを取りもどした
もう一人の彼女は窓を閉ざして
部屋を見渡した
そこは自分の身体の一部のようにも
見知らぬ他人の居場所のようにも思えた
彼女は大きく深呼吸をして
拳を握りしめて
自分の頭のてっぺんを強く叩いた





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