記憶の物語/アンテ
(喪失の物語)
毎日の記憶が体積して
棚や机の引き出しや流しの下など
部屋じゅうに溢れて暮らしにくくなったので
彼女は思い立って
整理して不要なものを処分することにした
記憶を洗いざらい床にぶちまけて
朝から晩まで黙々と仕分けを進めるうち
共通の出来事や場所ごとに記憶の山がいくつもできあがり
仕分けに夢中のあまりぶつかった拍子に
山のひとつを崩してしまった
痛いなあ気をつけてよ と声がして
崩れた記憶はいつの間にか少年に変わっていて
激しく彼女に食ってかかり
彼女が途方に暮れていると
少年は部屋のドアを
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