夏の場所/塔野夏子
 
空は虹色に溶け
得体の知れない甘さが
いちめんに薫り立つ夏のゆうぐれだ
長い夏のゆうぐれだ
君の記憶が
水のように透明に
けれど水よりも濃い密度で滴ってきて
それは容易く
私の現在を侵してゆくのだ
君の声が聴こえる
さびしさともかなしさともつかない掠れを
いつも何処かに潜ませていた君の声が
聴こえる

あの場所だ
秘密めいた小径が緑の茂みのあいだを
くぐり抜けて誘い込むあの場所だ
得体の知れない甘さは
耐えがたく薫り立ち
君という存在はその中でも
ひどく透きとおっていてそのくせ
何ひとつ透かし見せてはくれず

空は虹色にゆらめき
私は現在を侵されたまま
どうしようもなく長い夏のゆうぐれを
立ち尽くす




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