めぐり来る夏/塔野夏子
アガパンサスの揺れる向こうから
夏の旋律がこぼれはじめる
空の青と光の白が
みるみるそのまばゆさを増してゆく
そこに君が居た
そのなつかしさは残酷なほどあざやかだけれど
でもそこはもう
通りすぎた場所
逆光の向日葵と蝉時雨
蝉時雨がふと熄んだときのひときわ濃い静寂
君と居るならばおなじ夏が
何度でもめぐり来ると信じていた日々の宝石
でもそこはもう
通りすぎた場所
絢爛たる雲の城を仰ぐ
遠雷が聞こえる
そういままた夏はめぐり来たけれど
ただ君はかすかに微笑む
たぶん僕もおなじように微笑んでいる
そこに君は居た
そこに僕も居た
虹が ながい夕映えが僕らを染めた
でもそこはもう
通りすぎた場所
これからそれぞれにまた
あざやかな夏を数多織りなすだろう
でもそこはもう
戻れない場所
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