夏の空洞/塔野夏子
 
濃い青の空に
白い雲の城砦がいくつも立ち
なかぞらを埋めつくす蝉時雨
他のどの季節にもない濃密さで
夏は君臨する

けれどその夏の中に
巨きな空洞がある
夏のあらゆる濃密さが
そこでは途切れてしまう
記憶も希みも 祈りでさえ
その空洞を満たすことはできない

ただいつどこで生まれたのか
(あるいはこれから生まれるのか)
わからない痛みが
かすかに 谺するだけ

この空洞を抱いて
夏はなおも濃密に極まり
強い色の夏花を咲かせ
そのあざやかさで 数多の意識に
自らの存在証明を 深々と刻印してゆく



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