ノート(金網)/木立 悟
 




鳩を鴉に差し出して
また一日を生き延びた
誰も居ない橋の下に
ただ雨だけがやって来た


苦労知らずの三十路の子供が
にこやかに自身のことばかり言いつづける
聞いているふりをするのも
年寄りの仕事だ


二十六時の橋の下には
水の矢が無数に突き刺さり
鼠は鉛筆を齧りながら
遠い巣穴を夢みている


蟻に喰われるか陽に喰われるか
選べと言われて草に埋もれる
夜が来て また夜が来て
そのあとのことは誰も知らない


雨はまた強くなり
朝はどこまでも遠去かり
印のない光が積み重なり
空の地獄へゆく径となり


金網に囲まれた橋の下には
今日もたくさんの命が捨てられてゆく
見えない墓も
見えない自身も
























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