妹のはじまり/岡部淳太郎
 
それに脅えてい
る。われわれはもはや、限りなく進化しつづける生命ではありえな
いということが立証されつつある。だからこそ、特に力の発現を求
められてきた男たちの間に、妹信仰が蔓延してきたのであろう。い
まや力よりも非力の時、というわけである。風がさらさらといやら
しく頬を撫でて、その間にも太陽は確実に沈んでいく。私の妹はも
はや消え去り、私の背後の遠い秋のにおいのする草原では、男たち
が一年中春であるかのような妄想をたくましくさせて、妹を求めて
絶えずうろついている。彼等の足下のくさむらから、彼等の汚れを
背負って、見知らぬ妹たちの時間がゆっくりとはじまりつつある。



(二〇〇七年十月)
   グループ"散文詩"
   Point(6)