散文的な夏/岡部淳太郎
 
追われてゆく、陽の速度に倣って、大気は燃えている。すべての失われた魂を鎮める夏。その高温へと連れて行かれる。靴の紐がほどけている間に、素早く足裏をさらけ出し、女の後ろ髪がほどかれる間に、どうにかいまを諦め、おまえは炎天の、眼を痛める横断歩道の上で立ち往生している。

追われてゆく、砂の速度に倣って、海はさかりのついた動物。すべての汗が浮揚する夏。その欲得の隙間でいかれる。あらゆるものは無音でほどけ、素早くほどけ、古い書物の背中のように、おまえの日録は緩やかにほどけて開示される。おまえは炎天の、訪れるべき災厄の予感に、はるか遠くまで立ち止まっている。

追われてゆけ。追い越されてゆけ。夏の人
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   グループ"散文詩"
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