手紙/虹村 凌
僕は知っているけれど、
あなたがいるその街を、僕は何も知らない。
僕はあなたの大切な人を裏切って、あなたを愛しました。
あなたの大切な人は、僕の裏切りを受けて、僕達を切り捨てました。
あなたを愛した事は、間違っていたのでしょうか?
あなたと会った事は、間違っていたのでしょうか?
もしも、あなたと出会っていなければ、僕はきっと、今ここにいませんでした。
いま、こうやって筆を取る事も無いでしょう。
あなたの好きだった、あの煙草を吸う事も無いでしょう。
あなたと出会っていなければ、僕は、きっと、死んでいたのだから。
今、あなたを愛しているかと言えば、そんな事は全くなくて、
ただ、ただ一言だけ伝えたかったので、こうして手紙を書いています。
長くなってしまいました。
最後に、これだけ伝えて、筆を置こうと思います。
ありがとう。感謝しています。
あなたと出会わなければ良かった、と思った事は一度もありません。
ありがとう。
昭和弥拾年皐月六日
リョウ
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