アドスの竜/朧月夜
アドスの平原に竜は舞い降りると、
カシュクスの巫女は予言した。
それは塒を求めるためか、
今宵の獲物を狩猟するためか。
カヌカの大地に、生贄に捧げられた少女が立つ。
その心臓を神に捧げるようにと。
そして精神(こころ)だけの存在になれるようにと。
少女は、喜んで死を受け入れる。
そのころ、遠く離れた蒼穹の奥では、
一体の竜が卵を産み落とそうとしていた。
そして、無限連鎖の弱肉強食の営みが繰り返される。
カシュクスの巫女は言った、竜だけがこの地の救いなのだと。
それは、欲もなく、名誉心もなく、ただ生きるように生きていることだろう。
カヌカの少女は生贄に捧げられた。その全身を喜びに震わせて。
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