エインスベルの賦/朧月夜
 
カーガリンデの魔法使い、エインスベルには、
常に黒い噂がつきまとっていた。
いわく、彼女は黒魔術を扱い、死者たちを操っていると。
いわく、彼女は墓を漁って死体を集め、その身体を切り刻んでいると。

いわく、彼女は悪魔を敬い、この世界を滅ぼそうとしているのだと……
どれも稚児のたわごとのようなものだ。
エインスベルはただ異教徒であったに過ぎぬ。
エインスベルは神も悪魔も信じてはいなかった。

彼女の魔法の力を使えば、花たちを永久に生かしておくことも出来た。
そして、若いころには冒険の日々に明け暮れていた。
エインスベルとアイソニアの騎士とは、クールラントの国の隅々まで、

その旅路を共にしたという。なかには竜を退治したという噂まであった。
しかし、エインスベルの本当の素顔を、誰も知ることはない。
彼女の瞳は永遠の海を見通すことが出来る。アイソニアの騎士の死を除いて。
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