オスファハンとエインスベル(二)/朧月夜
エインスベルがなぜ、ヒスフェル聖国を訪れて来たのか、
わたしは分からなかった。
ヒスフェル聖国はクールラントの北西にある国である。
敵国とはいかなくても、その関係は微妙であった。
しかも、エインスベルはクーラントの英雄である。
気軽に他国を訪れられる身ではない。
その裏には、エインスベルの思惑があったはずなのである。
わたしは、その思惑について聞かなかった。
エインスベルは、今、放心状態だったのである。
母と姉妹の復讐を成し遂げた以上、そこには更なる目標が必要であった。
「まさか、ガラセラの樹について知りたいのではあるまいな?」
「いえ、わたしの知りたいのは世界の真実です。
この世界がいかにして成り立っているのか、わたしは、
それを知りたいのです」エンスベルは独り言のように答えた。
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