脱出(一)/朧月夜
数人の男たちの駆け足の音が、聞こえてきた。
看守たちが目を覚ましたのである。
「そこな女、そこで何をしている!」勇ましい声が響いた。
リーリンディア監獄の監守たちの声である。
エインスベルは振り返った。いささかも動じずに。
「ふっ」不敵な笑いを、その唇の端に浮かべる。
「今さら来たとはな……このクールラント、
長くは持たないかもしれないぞ!」そして、一閃。
エインスベルはレイゼル・ゲルンの呪文を放った。
いくつかの閃光が、看守たちに向かっていく。──そして、破裂。
エインスベルは、やや斜(はす)かいの目で、それを見つめる。
ヨランが短剣を、リグナロスとアイソニアの騎士が長剣を抜いた。
「おのれ、エインスベルは我が命! ここで絶えさせるわけにはいかない!」
アイソニアの騎士が、看守たちに向かって切りかかる。それは、峰打ちではなかった。
前 次 グループ"クールラントの詩"
編 削 Point(0)