ベトナム幻想/道草次郎
 
く気も起きない
おそろしく湿潤な霧にうかぶ艀
金にもならない魚籠を
日がな編む老婆は
きょうも華僑に
賄賂を握らせている

どうにもならない
七十年代の地雷の夢を
二行あれば事足りる文章で
この国の詩人は
ハノイの石仏に刻むから
鳩の姿は
きっとどこにもない

愚昧の宝物は
帝国の棺を収めた
隠し部屋に今もねむっている
今宵も一騎の幽体が
銃創をこしらえに
闇へと
水のようにしずんでゆく
   グループ"幻想の詩群"
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