砂 より/沼谷香澄
 
音のない青空である 端っこをびりびり破り裂く哨戒機

白い、錆、赤い、石灰、見てしまう。古い高架は堅い、おそらく

海ゆかば。冬、清潔に風化され。臭い残さず水漬く屍よ。

◇基礎体温を付ける◇気分を記録する◇小さな達成感を見つける

いま、あなた、タイヤ抜かれた自動車の、気持ちわかりますか、何考えてるか

立つ死体。うん、故事を引くまでもなく、死にます、死んで砂になります

谷ゆかば。動物園を定年で辞めたゾウらの老ゾウホーム

白っぽくちぢれる冬の緑葉が希望の意味を囁いている

あるはずの運河の幅は二百メートル しゅうしゅうと風、イネ科の枯葉

まぼろしの水門越えて赤さびた犬がボールをフェッチしている

初出:Tongue第4号 2004年1月21日 原文縦書

   グループ"個人誌「Tongue」収録作"
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