『遡上の果て』 卵から始まるはな詩?/ただのみきや
故郷の水産加工場で働き始めて二年になる
腹を裂いて 卵を取り出す
完全な流れ作業
嫌な仕事 本当に
だけどこんな田舎ではまだましな方
特に何ができるでもなく
コネがあるわけでもない
男相手の仕事にはウンザリしていたから
私は卵と目を合わせない
目を合わせると聞こえてくる
「お母さん お母さん……
夢も現も区別なく付きまとう
子どもの声
一度も聞かなかった声
ふくませなかった乳房
まだ大人になり切る前に
故郷を出て都会の海へ泳ぎだした
私もまた鮭のよう
誰にも見張られない
自由な暮らしに酔いしれた
まもなく男の網に掛かり
躰を横たえ夜な夜な肴となった
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