水溶性キネマ/るるりら
 
水溶性キネマ


記憶の階段を一段一段昇るたびに
潮のように満ちてくる

おじぃちゃんの机のうえには
馬の毛
たぬきの毛
頬にやわらかいリスの毛
お米にも描けそな麝香猫
ありとあらゆる獣の毛の筆が屏風のようなものに
吊るされています
牡蠣殻が腐ったような匂い
なにかの液体を煮溶かしているのです
机の上には
花 一輪
 
白い紙の上を
仙人のような手つきが 滑ります
花を描くつもりだと言うのに
一学期が終わっても
皺の多い手が 塗っているのは白い画面です
「胡粉と云うのだよ」
ひとはけごとに なにかき
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