■批評祭参加作品■夭折をあきらめて夜が明けてゆく/岡部淳太郎
 
よひとりきりなのだなと思った。正直に言えば、先を越されたと思った。夭折という観念に強く憧れながらそれを果たせずにいた僕は、ほんの少し悔しかったのだ。ともかく、妹は死んだ。若くして死んだ。夭折という一連の物語の中に、妹も加えられた。この事件が、僕にとって本格的に夭折をあきらめるきっかけとなった。三十代も後半にさしかかって遅すぎるとも言えたが、妹のおかげで生きつづけるという選択が僕に与えられた。先を越されて悔しかったと書いたが、同時にそれは、若くして亡くなってしまった妹の人生に対する悔しさでもあった。妹のためにも、出来るだけ長く生きのびなければならないと、僕は思った。
 もう一度、中原中也の詩集のペ
[次のページ]
   グループ"3月26日"
   Point(13)