その日は桜の花が咲いていた/岡部淳太郎
 
がなくなって、心があった場所に変ないびつなかたちの穴が開いて、その中を眼に見えない様々なものが通りぬけていくような気分だった。見上げるとそこには桜の花が咲いていて、もうほとんど満開で、やっと咲くことが出来た喜びを存分に味わっているように見えた。足下に眼を落とすと桜の花がもう散り始めていて、路上を薄い桃色に染めていた。咲くことの喜びと散ることの悲しみの、両方がそこにはあった。まるでこんな運命に遭遇してしまったあなたと僕たちのために、咲いては散っているようだった。そうして咲いた次の瞬間にはもう散り始めている桜の花を見ながら、まるで他人事みたいに、ああ、もう春なんだと思った。それ以来、世界は変った。僕の
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