embryo/士狼(銀)
温かい霧雨は
失われた羊膜の記憶のように
柔らかに
わたし
という意味を
緩やかに包括する
鳴き声のような雨音は
鼓膜に優しいけれど
痛みに疼く左目が
暗転する風景を拒絶している
疑問符で溶けた脳髄を
傘の先端で
水溜りに一滴だけ落として
みたいと思った
温かい霧雨の
そのリズミカルな弾性は
夏服の袖から伸びた
奇妙な形をした肌色を
めった刺しにしていくようにしか
わたし
という存在は
受け入れないのだ
感嘆符に驚いた傘を
放り投げて見たイメージ
電車が脱線する
錆びた警報機の赤目から
わたしは何も生むことができなくて
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