壁に向かって僕は歌をうたっていた/草野春心
 


  壁に向かって僕は歌をうたっていた
  隣の住人は何も言ってこなかった

    そして誰かが線路に飛び込んで
    そして誰かが樹海で首を吊って
    そして誰かが誰かを撃ち殺して



  壁に向かって僕は歌をうたい続けていた
  部屋の中からは一度も出たことがなかった

    そして誰かがギターを弾き始め
    そして誰かがステップ踏み始め
    そして誰かが誰かと踊りだして
 


  君と出会って僕はうたうのをやめた


   *


  怒りや憎しみや悲しみや不幸、嫉妬や
  戸惑いや絶望や訃報、諦めることや
  
[次のページ]
   グループ"春心恋歌"
   Point(4)