壁に向かって僕は歌をうたっていた/草野春心
壁に向かって僕は歌をうたっていた
隣の住人は何も言ってこなかった
そして誰かが線路に飛び込んで
そして誰かが樹海で首を吊って
そして誰かが誰かを撃ち殺して
壁に向かって僕は歌をうたい続けていた
部屋の中からは一度も出たことがなかった
そして誰かがギターを弾き始め
そして誰かがステップ踏み始め
そして誰かが誰かと踊りだして
君と出会って僕はうたうのをやめた
*
怒りや憎しみや悲しみや不幸、嫉妬や
戸惑いや絶望や訃報、諦めることや
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