一言主2/……とある蛙
昔々のその昔
葛城山の頂(いただき)に
崩落しそうな崖を臨み
奇形な巨岩(おおいわ)に注連縄(しめなわ)が
その巨岩(おおいわ)のその上に
みずらに勾玉(まがたま)
直刀を佩(は)く 弥生の名残の
一言主(ひとことぬし)
神と祀られ月を見る
月は月読 五穀の神
一言主神は「悪事(まがごと)も一言、善事(よごと)も一言、言い離(はな)つ神」
悪事(まがごと)も一言、善事(よごと)も一言
言い離(はな)つ
葛城山の一言主は
今、大きな月明かりの中
巨岩(おおいわ)上のに鎮座する。
しかし、
若建の悪事(まがごと)一つ糾せない
葛城一族の没落に
なんの救いを与えない
記ではまつられ
紀では懇ろに
葛城山の一言主は
結局 役行者の使い走り
そのまま 田舎にも祀られて
あの巨岩(おおいわ)は崩れ去り
すべて大和は大王(おおきみ)の物
物言わぬ者忘れられる
事起こさぬ者もまた忘れられる
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