音のこと/はるな
花が割れるおとを知っているだろうか。
わたしのよく知っているのは、凍った薔薇が割れるおとだ。
虫の羽の振動のようにか細く、澄んだ一瞬の音。
音に執着した時期があった。色やにおいやかたちに執着するよりも前に、まず音に執着する時期があった。もともと耳が良いほうではない。たぶんだからこそ。
いろいろな音を聞き、執着は、どんどん細く、かよわい音のほうへかたむいた。たとえば雨だれ、衣擦れ、葉が枯れて落ちるときの音、朝方とおくで鳥がとびたつ音、隣のへやでだれかが寝返りをうつ音。
割れるおとは、最初はおおきな音の分類だった。砕け割れて飛び散るおと。
割れるおとがおおきな音ばかりでないとやっと
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