靴のこと/はるな
冗談のように、君がこれから傷つかないよう、守ってあげるからね。と言った。背中に巻きついて、彼の体温ごしに。
「頼もしいなあ」
と、笑みを含んだ彼の声。
そのうち、あるいはたびたび、彼のことを傷つける気がしてしまう。彼はとてもやさしいし、まじめで、筋の通った人間だから。
帰りの車のなか、「あなたは今までとてもいい恋人だったよ。」と言った。本心で。雨を拭ってびしょびしょと動くワイパー。赤くなった足指、あわない靴。「お前は、お世辞にもいい彼女とは言えなかったなあ。」通り過ぎる街灯との距離に、彼の横顔が明滅する。
それなら、もう慣れたよね?
とは聞けずに、やっぱり、靴を弄んでいた。いい妻になると宣言できるわけがない。それでも、生活をともにするのだ。たぶん、べつべつの覚悟を胸のうちに。
結婚をした。
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