雨のこととチョコレートのこと/はるな
くれるからだ。窓になって、扉になって、鏡になってくれる。そしてきちんとした重みと体温を持った動物の体。夫いがいの恋人たちは、まだ、みんな「あちら側」にいる。わたしは彼らに会いに行くことができるけれど、彼らは、こちら側には遊びに来てくれない。夫とちがって。わたしの、望むとのぞまざるに関わらず。
フィンガーチョコレートを、食べたくなるのは雨のせい。
夫に頼んだら、チョコレートクッキーを買ってきた。男の人ってときどきそうだ、話がぜんぜん通じない。わたしはすこし泣いた。「フィンガーチョコレートじゃないとだめだよ」「どうして?」「雨だから」「雨だとどうしてフィンガーチョコレートじゃないとだめなの」「アスファルトが・・」「アスファルトは食えないよ、寒いからな、コーヒー入れよう、豆買ってきたから」
夫が買ってくるコーヒー豆は、わたしがいつも買うものよりもずっと安いものだけど、油っぽいチョコレートクッキーには良く合う。わたしは、たちまち、現実のものを受け入れることができるようになる。
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