やすらかなこと/はるな
 
だ。「慣れる」ということに、慣れることができない。制服を着ることも、脱ぐことも、慣れなかったように。あらゆる物事にがんじがらめになることでしか安心できないし、息苦しいくらいでなければ息をしているかどうかもわからず不安になる。愚かなことだ。

だからきょうはいちばん好きなドーナツ屋でドーナツを1000円ぶん買った。
ここのドーナツは、おいしい油の味がするのだ。
「きょう限定で、1000円以上のお買い上げでマグカップ差し上げています。」

マグカップにはくまの絵が描いてある。
ねそべっているくまの絵。
やすらかなことを考える。
やすらかなこと。
ねそべっているくま。ドーナッツ。洗い物のすんだ台所。あおぞら。かもめ。日曜日の朝の無精ひげ。
やすらかなこと。昨日がだめでも、今日がだめでも、明日がだめでも。誰かの不安がここへめぐってくるのだとしても。わたしの不安が誰かにめぐっていくのだとしても。
それでも、と、考える。
それでも、と、考えることのできるやすらかさ。
どうしてだろう。他人のような距離で、自分を愛することができるような気がしてくる。


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