りんごのこと/はるな
ら、わたしの知っているひとびとの多くは十年ぶん年をとったし、なくなってしまったものや、あたらしく発生したものもある。わたしの左腕は、わたしの右腕とはすこしちがう。夫は腕を切らないわたしを知らないということになるし、あとさらに五年たって、わたしが腕を切るのをやめていなければ、わたしは生まれてきてから腕を切らないで過ごした期間のほうが短いということになる。わたしがあと五年後も生きていて自分のからだを使うことができる状態であれば。
でもこんなのは、(こういう数字は)、あまり重要にすることでもない。
なぜなら、いまは、夫―かつての恋人―がいて、冷蔵庫にはゼリーがあって、りんごの皮を剥かなければなら
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