【批評祭参加作品】つめたくひかる、2?江國香織『すいかの匂い』/ことこ
水からあがると母が待っていた。バスタオルをひろげ、にっこりとわらって。かわいたタオルはあたたかく、秩序と安心の匂いがした。
(「薔薇のアーチ」)
ここでは「つめたい」という言葉は使われていないものの、朝の海の水はもちろん「とり肌がたつ」ほどに「つめたい」わけで、「海は苦手だった」という「私」の不安定な心理状態を増長させている。
このように、「つめたい」という語が出てこない話においても、「つめたい物」が登場することで、主人公の不安定な心理状態が暗示されていると言えよう。
これに加え、今度はエッセイ集『いくつもの週末』(集英社文庫)から少し引用してみたい
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