批評祭参加作品■鏡の詩「フィチカ」/Rin K
らしい。
なぜそんなにもただのお面でしかないこの天狗が怖かったのか。それは、見るたびに表情が変わるからである。あるときはにらみつけているように、またあるときは微笑んでいるように。友達とケンカをした日に天狗を見れば、その目は吊り上っていた。家の前の掃除を手伝った後に天狗を見れば、その表情はおだやかだった。かわいがっていた犬が死んでしまった日は、天狗の目からも確かに涙がこぼれていた。今思えば、あの天狗は心の鏡だったのかもしれない。見るものの内面をそのまま映し出していたから、硬い木製の筋肉でありながらも、恐ろしいまでに自在に表情を変えたのだろう。
「フィチカ」
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