批評祭参加作品■時が終る、詩が始まる/岡部淳太郎
あなたはどこでもない「いまここ」にいて、生きている。日常はどこかぼんやりとしていて、何となく何かをわかったような顔をしている。そんな連続する退屈な日々の中のある時、ある場所において、あなたをひとつの揺らぎが襲う。それまで味わったことのない妙なもの。心の中に広がる、得体の知れない新しい感情。あるいは感傷。自らの周囲のすべての物や人が、それまでとは明らかに違うただならぬ雰囲気を発しているように感じて、あなたはとまどう。とまどいながら、あなたはそれらの新しいものたちの中に成すすべもなく飲みこまれていく。世界はあなたを中心にして、どうしようもなく揺れている。それでもその揺らぎの謎をつきとめようとして、あなたはおぼつかない足取りで歩き出す。あなたの時は終ったのだ。そして、その終った場所から、あなたの詩がゆっくりと始まる。
(二〇〇八年一月)
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