空き地/光冨郁也
 
たスクールバスのカフェはなくなった。失われた黄色い車体。すみに別の白の乗用車が乗り捨てられている。タイヤが外されている。前より空き地のスペースが広くなり、その分、わたしの流木が増えた。空白を埋める腕に囲まれる。いくら集めても何にもならない。それでも白い流木の林は少しずつ広がる。

 天気雨。風が強い。わたしは空き地の中心にタイヤを置いて座る。チューニングをするように、指で宙を探る。しばらくすると、女の声が聞こえてくる。女は意味のとれないことをしゃべりつづける。わたしは黙って聴いている。わたしが話しかけても、木霊のように同じ言葉しか返さないから。女は笑う。雨が降り注ぐ。シャツが濡れる。ポケットの文庫本は大丈夫だろうか。空はどこまでも高く、そして青い。わたしも笑う。女の声を聴きながらもひとりでいるのが、楽しいから。

 文庫本をポケットから出し、シャツのなかに入れて、天気雨から守ろうとする。吹き続ける強い風に、空へ栞の代わりの帯が飛んでいく。どこまでも。青い色彩の中に、帯が消えていった。




   グループ"散文詩「バード連作集1・2・3」"
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