空き地/光冨郁也
 
 わたしには女の声が聞こえる。誰にも似ていない声。でもひとには話さない。話す相手もいない。流木の散らばる砂浜。わたしはひとりで波間を眺める。ジーパンの後ろポケットに突っ込んだ神話の文庫本。もう何度も読んだ。本の帯を栞の代わりにしている。あの日、海で溺れかけてから何年も経った。わたしはバイト先を転々としながら、生活を続けている。流木は裂けて白くなっている。砂浜にはひとはいない。あっただろうだれかの足跡は波で消えている。みんなどこかへ行ってしまった。わたしは自分の靴先を見る。

 風が強い。波が荒れている。今日も流木が一本流れ着いた。砂浜に打ちよせられる。ひとの腕くらいの大きさ。わたしは近より、手
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