書かれた-父/非在の虹
舌の上を探る蠅がいる。
(父、父、父、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声か)
深夜の寝言といびきと歯軋りそれは
父の恐怖の叫びだ。
(父、父、父、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声か)
腐敗の時間の澱のなかで
廃墟に佇む父。
しかし父そのものが廃墟なのだ。
不安定な床板と
風雨で浸食された壁と
理解不能に歪んだパイプのぶら下がる部屋。
(父、父、父、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声か)
父の計画はあまりに浅はかだ。
その結果息子に殺される。
あるいは息子を殺し損ねる。
これは古代の劇ではない。
現在という時間のさなかで
父は死の時刻まで生きる決意が強いられた。
しかし永い時ではないだろう。
なぜなら父は湿地の瘴気におかされ危篤だ。
父は湿地に埋葬されるだろう。
あまたの卒塔婆が、父の
勃起したペニスのように屹立するだろう。
(父、父、父、と泣く声が聞こえるがあれは誰の声か)
(息子か、ならば過去からの声か)
(父か、ならば冥界の声か)
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